
渋谷のセンター街で、三人組とすれ違ったことがある。手前の子はキャメルのニットに大きめのピンクのリボン、真ん中の子は黒のフリルブラウスに真っ赤なリボンタイと十字架のネックレス、奥の子は厚底のプラットフォームサンダルに小麦色の脚、ラメの効いたボディオイルで肌が光っていた。三人とも「甘さ」をまとっているのに、放っている気分はまるで違う。手帖には「同じピンクでも、着地点が違う」とだけ書いた。今日はその着地点の違いを、系統図として整理してみたい。
一見つながって見える理由——ピンクという共通言語
地雷系・量産型・ギャル、どれも「甘さ」「盛る」という語彙を共有しているから、遠目には親戚のように見える。フリル、リボン、盛りメイク、厚底靴——パーツを単体で並べると重なる部分は少なくない。同じ渋谷系ショップの棚に、三系統の子が並んで手を伸ばしていることもある。それでも実際に街で目が合う瞬間、私たちはほぼ一瞬で「これはどの系統か」を判定している。判定の基準は服の柄でも色そのものでもなく、その子が放っている気分のようなものだったりする。系統とはパーツの集合ではなく、パーツをどう組み立てるかという設計思想の違いに近いのかもしれない。手帖にはよく「似ているのは語彙で、違うのは文法」と書いている。
ギャル——肌と元気の系譜、盛りの正統
三つの中でいちばん歴史が長いのがギャルで、肌見せと日焼け、元気の表現を系譜の中心に置いてきた。この通史は別のノートにまとめてあるので今回は深追いしないし、令和のギャル、いわゆるY2Kリバイバルについても手帖に書いたのでそちらに譲る。ここで確認しておきたいのは、ギャルというシルエットの軸がずっと「肌」だったということ。オフショルやミニ丈、露出は隠すためでなく見せるための設計で、色そのものより肌の面積が記号として機能してきた系統に見える。だから配色はブラウンやゴールドの、肌の上で光る色に寄っていく。地雷系や量産型のようにトップスの布面積で気分を語るのではなく、素肌の見え方そのものが表現の中心にある——そこがいちばんの分岐点だと思う。
量産型——「同じ」を選ぶ安心、清楚とお嬢様の王道
量産型はもともと、流行の服をそのまま着る没個性的なスタイルを揶揄する言葉として2010年代前半に生まれたと言われる。それが後にジャニーズや地下アイドルを推す女の子たちのあいだで、明るい色調とフリル・リボンを重ねた「王道お嬢様」的なコーディネートを指す言葉へと転じていったらしい。ベージュ、白、水色、淡いピンクが主戦場で、シルエットは体のラインを強調しない、清楚で盛りすぎない王道。厚底靴やリボンといったパーツはギャルや地雷系とも重なるけれど、狙っている効果はまるで違う。「推しに可愛く見られたい」という他者評価が起点にあり、目立つことより馴染むことに軸足がある。量産型という名前自体が、「みんなと同じでいい」という価値観の裏返しに見えてくる。メイクもピンクの涙袋でうるうるとした庇護欲を誘う方向に寄っていて、攻めるより守られる印象を狙っている気がする。ライブ参戦服という出自を思うと、これは一人で完結する装いというより、会場という同じ気分の集団の中でこそ意味を持つ系統なのだろう。
地雷系——病みかわいいの系譜、簡略化されたゴスロリという説
地雷系という言葉は、もとはファッションの様式ではなく、精神的に不安定だったり愛情表現が重かったりする女性を「踏むと危険」という意味で例えたスラングだったと言われる。それが2014〜2015年ごろに広がった「病み系」メイクの派生として、ファッションのスタイルへ転じていったようだ。黒とピンクを重ねた配色、たれ目や涙袋を強調した泣き顔メイク、ハイブランドの小物にサンリオのダーク寄りのキャラクターを合わせる組み合わせ、十字架やハートのモチーフ——このあたりが地雷系のキーアイテムとしてよく語られる。ルーツについては、ゴスロリを簡略化した系統だという説もある。黒基調・ホラー寄りのメイク・ダークなアクセサリーという骨格を、ロリータほどの技術的な作り込みなしに再現できる様式として広まった、という見方で、確定した通説ではないけれど筋は通っているように読める。地下アイドルシーンやヴィジュアル系文化との親和性も、よく指摘されるところだ。ロリータのように型紙から布地選びまで作り込む余地が大きい系統は、正直なところ参入のハードルが高い。地雷系はその骨格だけを抜き出して、量産型と同じく既製服とプチプラコスメで再現できる形に翻訳した系統に見える。だからこそ「病み」という重い感情の記号が、意外と身軽に着られる。
三系統、並べてみる
| 系統 | キーアイテム | 色 | シルエット | 気分 |
|---|---|---|---|---|
| ギャル | プラットフォームサンダル・アクセ盛り・日焼け肌 | ブラウン・ゴールド・ビビッドカラー | 肌見せ・脚出し、体のラインを見せる方向 | 元気・外向き、「見せる」ことへの肯定感 |
| 量産型 | フリルブラウス・リボン・厚底靴 | ベージュ・白・水色・淡いピンク | 体のラインを隠す、清楚で盛りすぎない王道 | 安心・王道、「可愛く見られたい」他者評価の起点 |
| 地雷系 | ダーク寄りのキャラクター小物・十字架・ハイブランド | 黒とピンクの組み合わせ | フリル多用だが黒で締める、簡略化されたゴシックの骨格 | 病み・個人主義、危うさごと肯定する構え |
境界はにじむ——線引きは一つではない
ここまで三系統を分けて書いたけれど、実際の街では地雷カジュアルや量産地雷、ギャル寄りの量産型など、境界をまたぐ着こなしのほうがずっと多い。トップスは量産型の白フリル、リップだけ地雷系の赤を差す、というような日もあるだろうし、日焼け肌にダークな配色を乗せる子だっている。系統名はあくまで後づけの整理で、着ている本人が「自分は地雷系だ」と名乗るかどうかは、その日の気分や予定にも左右されるものだと思う。平成のクローゼットを掘り起こすと、今の三系統の祖形がもっと入り混じった形で出てくることもある。その発掘は別のノートに書いた。この記事の分類も、私という一人の観察者が渋谷や原宿や梅田で見てきたものから引いた一本の線にすぎない。系統の境界がどこにあるかは、書く人・着る人の数だけあると思っておいたほうがいい。これが唯一の正解というつもりはまったくない。
手帖に残った一行
結局、あの三人組を見送りながら手帖に書いたのは「系統は分かれても、鏡の前で選ぶ理由は似ている」という一行だった。可愛く見られたいのか、危うさごと肯定してほしいのか、それとも今日は元気でいたいのか——選ぶ服は違っても、そこに宿る気分を丁寧に読み取ることだけは、これからも変えないでいたい。系統図はゴールではなく、次に街で誰かとすれ違ったときのための、ただの見取り図にすぎない。